アグリテックや植物工場という言葉は、ここ数年で一気に一般化しました。
しかし実は、植物工場は「最近生まれた新技術」ではありません。
一度期待され、廃れ、そして再び加熱している。
その背景を理解しないと、なぜ今うまくいく(あるいは、うまくいかない)のかは見えてきません。
本記事では、植物工場の歴史的な流れと、
イチゴ生産の現場で得た実感をもとに、
植物工場とアグリテックの現在地を整理します。
植物工場は「何度目かのブーム」である
植物工場は、決して新しい概念ではありません。
日本では1970〜80年代から研究が進み、2000年代にも一度大きな注目を集めました。
しかしその後、多くの施設が採算に苦しみ、
「コストが合わない」「現実的ではない」という評価が広がり、一度下火になります。
それでも現在、再び植物工場が注目されているのは、
- LEDやセンサー技術の進化
- 自動化・ロボティクスの実用化
- データ取得・解析環境の整備
といった技術的な前提条件が大きく変わったからです。
意外にも、日本はこの分野で進んでいる
植物工場というと、アメリカや欧州が先行しているイメージを持たれがちです。
しかし実際には、日本は意外なほどこの分野で蓄積を持っています。
- 品種や作物特性への理解
- 小規模でも高品質を追求する姿勢
- 繊細な環境制御技術
特にイチゴのような作物では、日本の知見は世界的に見ても独特です。
アメリカでは、植物工場の倒産が相次いだ
一方で、アメリカでは近年、植物工場スタートアップの倒産や事業縮小が相次ぎました。
理由の一つが、葉物野菜では採算が合いにくかったことです。
- 単価が低い
- 輸送コストとの競争
- 大規模化しても利益が伸びにくい
技術的には成立していても、ビジネスとして成立しなかったケースが多く見られました。
植物工場の本当のメリットとは何か
植物工場の最大のメリットは、
**「植物のポテンシャルを最大化する環境を意図的に作れること」**です。
適切な環境が整えば、
- 露地栽培よりも安定して
- 場合によっては、より美味しい作物を
- 再現性高く生産できる
という可能性があります。
特に重要なのは、試験スピードです。
露地栽培では、年に1回しか検証できない条件も、
植物工場であれば年間に何度も試せる。
この差は、研究・品種選定・栽培条件最適化において非常に大きいと感じています。
それでも無視できないデメリット
もちろん、植物工場には明確なデメリットがあります。
- 初期投資の大きさ
- 電気代を中心としたランニングコスト
- 特にHVACや除湿にかかる負担
これらを考えると、
「売りの単価をどう上げるか」
あるいは
「価値の取り方をどう設計するか」
が不可欠になります。
産業全体の課題は「人」にある
植物工場やアグリテックの最大の課題は、
実は技術そのものではありません。
データを活用できる人材が圧倒的に不足していることです。
- 植物のどの位置でデータを取るべきか
- 個体差やばらつきをどう捉えるのか
- 数値をどう意思決定に落とし込むのか
これらは、
「データサイエンス」だけでも、
「栽培経験」だけでも解けません。
今後の鍵は、品種と設計にある
今後の植物工場において重要になるのは、
- 収量性が高く
- コンパクトに育つ
- 多段栽培に適した品種
の開発と、それを前提にした設計です。
植物工場は、作物側と設備側を同時に設計する産業です。
ここが噛み合わなければ、持続的な成功は難しいでしょう。
おわりに
植物工場は、魔法の技術ではありません。
しかし、正しく理解し、正しく設計すれば、
農業の可能性を確実に広げる選択肢でもあります。
このメディアでは今後、
- アグリテックの最新動向
- 植物工場とデータ活用の現実
- 海外事例と日本との違い
を、できるだけ整理された形で発信していく予定です。
派手な成功事例よりも、
なぜつまずくのか、どこに可能性があるのかを、
丁寧に考えていきたいと思います。