緊急事態宣言が明け、続々と美術館などが再開しているなか、
アートとの関わりを深めたいと思っている方も増えているのではないでしょうか?
今日は『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」 (光文社新書)』 (2017)をご紹介します。
- 美意識を高めるとどんな良いことがあるかわからない人
- 美意識を高めるにはどうしたらいいのかわからない人
- コンサルなど、合理性を追求する仕事の限界を感じている人
著者について
著者の山口さんは、学生時代に美術史を専攻、BCGの戦略コンサルタントを経て、組織やリーダーシップなどを専門としている方で、他にも『外資系コンサルタントのスライド作成術』などの著書を出版しています。
戦略コンサル系の方が、ロジカルだけじゃやってけないよ〜と言っているという斬新な話です。
本の構成
ざくっと本の構成を眺めると、こんな感じ。
– 【解決策】なぜ美意識が重要なのか(第4章 – 第6章)
– 【実践方法】どのように美意識を鍛えるか?(第7章)
忙しい方は、なぜ美意識が重要かの回答が「はじめに」で書いてあります。
第1章~第6章はその裏付けなので、読み飛ばしても良いかもしれません。
第7章の「どのように美意識を鍛えるか?」という話だけ実践的なことが書いてあります。
要約
エリートが直面している課題は何か(第1-第3章)
①論理的・理性的な情報処理スキルの限界
論理や理性で考えてもシロクロのつかない問題については、むしろ「直感」を頼りにした方が良い
多くのビジネスパーソンが、論理的な思考力、理性的な判断力を高めるために努力しているわけですが、そのような努力の行き着く先は「他人と同じ答えが出せる」という終着駅、つまりレッドオーシャンでしかありません。
論理よりも哲学やった方が、いざというときはパワフルな回答ができそうというのは納得です。
②巨大な「自己実現欲求の市場」の登場
マーケティング的な話です。
現代社会における消費というのは、最終的に自己実現に行き着かざるを得ないということであり、それはつまり全ての消費されるモノやサービスはファッション的側面で競争せざるを得ないということです。
「アップル製品を使っている私」という自己実現欲求の充足であり、さらには「アップルを使っているあの人は、そのような人だ」という記号だからです。
わかりみが深いですね。
性能面ではどこのメーカーもそれほど変わらないかもしれないのに、
なぜ人々はDesigned by Apple in Californiaを支持するのか。
私もMacユーザーですが、購入の理由はほぼ「スタバでMacを開きたいから」でした。
ストーリーとか世界観とかが大事という話は、以前本ブログでもご紹介した尾原さんも言っていました。
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③システムの変化が早すぎる世界
システムの変化にルールが追いつかない。
実定法主義(=明文化されたルール)と自然法主義(=自然や人間の本性に合致しているか)という考え方があります。システムの変化が早すぎると、明文化された枠組みの中だけでは社会を回しきれない状況が起こります。「法律がないからやっちゃえ!」という発想で進んでしまうと、後出しジャンケンの要領で、やってしまった後から明文化された時に「それは違法です!」と突きつけられてしまう可能性があります。
「犯罪を犯さないため」にも、「人生を評価する自分なりのモノサシを持知なさい」ということです。
なぜ美意識が重要なのか(第4章 – 第6章)
①より高品質の意思決定をするため -感受性と情動のトレーニング-
適時・適性な意思決定には理性と情動の両方が必要であるとするソマティック・マーカー仮説があります。
ソマティック・マーカー仮説によれば、情報に接触することで呼び起こされる感情や、身体的反応(汗が出る、心臓がドキドキする、口が渇く等)が、脳の前頭前野腹内側部に影響を与えることで、目の前の情報について「良い」あるいは「悪い」の判断を助け、意思決定の効率を高めます。
そこが「美を感じる役割」もになっているから美意識が重要ってことみたい!
②「主観的な内部のモノサシ」を持つため -良いものは良い、ダメなものはダメ-
日本のエリート組織が抱えやすい闇のお話。
受験のシステムが点数で決まってしまうように、
エリートとは「何ができれば階層を上がれるか、どうすれば上がれるか」基準が明確で、合理的な世界で勝ち上がってきた人たちです。
いわば、他人の決めたモノサシです。
生きていくために、ある程度はシステムに適合することが必要です。
しかし、それを無批判に受け入れてしまうと、誤った誠実性を発揮する可能性があります。
かつて、第二次世界大戦の時に、ナチスドイツで、数百万人のユダヤ人迫害を主導したと言われるアドルフ・アイヒマンという人物がいました。彼は、最終的に絞首刑となりましたが、裁判では度々「自分は命令に従っただけだ」と徹底して無罪を主張したのでした。
アイヒマンは組織人間の象徴であり、男や女や子供を番号として見る疎外された官僚の象徴である。(中略)彼の最も恐るべき点は、自白によってすべてを語ったのちでも、心から無罪を信じて、それを主張したことである。
– エーリッヒ・フロム『反抗と自由』-
【実践方法】どのように美意識を鍛えるか?(第7章)
絵画を見る
以下のような観点で見ると良いそうですよ
- 何が描かれているか?
- 絵の中で何が起きていて、これから何が起こるのか?
- どのような感情が、自分の中に生まれているのか?
哲学に親しむ
哲学からは哲学者自身の世界や社会への向き合い方や姿勢が学べます。
当時はどんな考え方が一般的で、それに対してどのような知的態度で持って世界や社会と向き合っていたのか。
文学を読む
文学というのは、物語という体裁をとって、その時代の哲学を考察してきた集大成なんだそうです。
「偏差値は高いけど美意識は低い」人は共通して文学も読んでいない、どういう統計なのかは不明ですが、事実ならばこれは危惧するべき事実ですね。
人の気持ちや、喜怒哀楽を学ぶには、想像力も必要で、良い教材かもしれません。
詩を読む
リーダーシップには「レトリック(修辞)」が有効ですね。
確かに、人の心を動かす優れたスピーチには、優れた例え表現が多く使われている印象があります。(雑なコメントですみません)
感想
これまで、自分自身が美意識というものをあんまり考えられていなかったなと思いました。
美術にしても、美術史の本を参考にしながら、人の決めた解説で納得してしまっていました。
美意識と聞いて、ファッションのことかな?と最初は思いながら本を手にとったのですが、
内容を読むと少し違っていましたね。(いや、お洒落な人は、安くて汚いスーツをきている人よりは美意識高そうだし、あながちそこまでずれてもないのかな)
いずれにせよ、もっと文学や詩を親しみ、自分の感受性を高め、主観的な物差しを手に入れていきたいと思います。